情シス目線で考える社内AI活用の危険性

~便利さの裏に潜むリスクと対策~

近年、ChatGPTなどの生成AIをはじめとするAIツールの社内活用が急速に広がっています。
営業資料の作成、コードレビュー、議事録の要約、ヘルプデスク対応など、多くの業務が効率化される一方で、情報システム部門(以下、情シス)としては「利便性」だけでなく「リスク」も冷静に見極める必要があります。

本記事では、情シス目線で考える社内AI活用の危険性を整理し、注意すべきポイントと対策を解説します。


1. 機密情報の漏えいリスク

■ 問題点

生成AIツールの多くはクラウド上で動作しており、入力した情報が外部サーバーを経由します。
そのため、社員が無意識のうちに以下のような情報を入力してしまうと、重大な情報漏えいにつながる可能性があります。

  • 顧客名や取引条件
  • ソースコードや設計図
  • 社内の未公開戦略資料
  • 個人情報や従業員データ

特に、AIが学習データとして入力内容を再利用する仕様の場合、他社経由で情報が“再出現”するリスクも否定できません。

■ 情シスとしての対策

  • 社内で使用を許可するAIツールを明確に定義し、利用ポリシーを策定する
  • 外部クラウド型AI利用時には、データ保持ポリシー・学習設定を確認する
  • 機密情報を入力禁止にするルールを社内教育で徹底する
  • 社内専用の**クローズドAI環境(社内データのみ学習)**を構築することを検討

2. 情報の正確性・信頼性の欠如

■ 問題点

AIの回答は「それらしく正しい」ものの、必ずしも正確ではありません
特に法務・経理・人事などの分野では、誤情報をそのまま活用するとコンプライアンス違反業務ミスにつながるおそれがあります。

■ 情シスとしての対策

  • AIが出力した情報を必ず人間が検証するプロセスを明文化
  • 部署ごとに「AI活用範囲」「AI利用禁止領域」を設定
  • 内部監査部門と連携し、AI出力の監査ログを残す仕組みを導入

3. 権限管理・アクセス制御の甘さ

■ 問題点

社内AIツールを導入する際、アクセス権限の管理が不十分だと、
想定外の社員が機密情報やAIモデルを利用できる事態が起こります。
特に、他システムとAIが連携している場合、権限の境界が曖昧になりやすく注意が必要です。

■ 情シスとしての対策

  • シングルサインオン(SSO)対応を前提にAIツールを選定
  • ユーザーごとの利用ログ・アクセスログを自動記録
  • 退職者・異動者の権限を自動で削除する**IAM(Identity and Access Management)**との連携

4. シャドーIT化による統制不能リスク

■ 問題点

業務効率化の名目で、社員が勝手に無料のAIツールを利用する「シャドーAI」が急増しています。
これにより、情シスの管理外でデータが外部に流出するなど、統制不能なリスクが生まれます。

■ 情シスとしての対策

  • 外部アクセスを制御するプロキシ設定DNSフィルタリングを導入
  • 社内AIポータルや承認済みツールを整備し、「正しい利用先」を明示
  • 利用状況を定期的に可視化し、シャドーAI利用を検知

5. 社内データガバナンスとの整合性

■ 問題点

AI活用が進むと、「どのデータをAIに学習させてよいか」「誰がその責任を負うか」が不明確になりがちです。
データの分類・精度・更新頻度が統一されていないと、AIが誤った判断を下す危険もあります。

■ 情シスとしての対策

  • データ管理責任者を明確化し、AI学習用データの承認フローを設ける
  • 機密区分(公開/社内限定/秘)をメタデータとして統一管理
  • データ品質チェックを自動化するDataOps基盤の導入

6. 法規制・契約面のリスク

■ 問題点

AI活用には、個人情報保護法著作権法などの法的リスクも関係します。
外部生成AIを利用する際、社内データを外部APIに送信することが委託契約に該当するケースもあり、法務と連携が必要です。

■ 情シスとしての対策

  • 利用規約・プライバシーポリシーを精読し、法務部門と共有
  • 契約時に「データは学習に使用されない」ことを明文化
  • 国内法・海外法の両面からリーガルチェック体制を確立

まとめ:情シスは「制限」ではなく「設計」でリスクを防ぐ

AIは業務効率化の強力な武器である一方、その使い方を誤ればセキュリティホールにもなり得ます。
情シスの役割は「禁止」ではなく、安全にAIを活用できる環境を設計することです。

  • 利用ルールを明確にする
  • 安全な環境を整備する
  • 教育と監査を継続する

これらをバランス良く実行することで、AIの恩恵を享受しつつ、組織の信頼と情報資産を守ることができます。


補足:情シスが次に取り組むべき3ステップ

  1. 社内AI利用実態の可視化(どの部署で何が使われているか調査)
  2. AI利用ポリシーとセキュリティ基準の策定
  3. 安全な社内AI基盤(プライベートLLMやRAG環境)の検討

著者プロフィール

有限会社エクスリンク 情報システム部門(情シス)担当
クラウド基盤運用・セキュリティガバナンスを中心に、社内ITの最適化に従事。
近年は生成AIの社内展開支援とリスクマネジメントの両立に取り組んでいる。