＜序章＞プロローグ
日が沈む頃、真紅に染まった空が広がっていた。佐藤美咲は窓辺に立ち、遠くを見つめていた。30年間住み慣れたこの街を去る日が、ついに来てしまった。
荷物はすでにトラックに積み込まれ、部屋にはかつての生活を偲ばせるものは何も残っていない。ただ壁に掛けられた一枚の写真だけが、まだそこにあった。
美咲は静かに歩み寄り、その写真に手を伸ばした。笑顔で並ぶ家族の姿。もう二度と戻ることのできない幸せな日々。指先が額縁に触れた瞬間、胸に込み上げるものがあった。
しかし彼女は涙をこらえた。新しい人生が、未知の地平線の向こうで彼女を待っている。そう、これは終わりではない。新たな始まりなのだ。
美咲は深呼吸をし、写真を慎重にバッグに入れた。最後に部屋を見回し、ドアに手をかける。
「さようなら」
彼女はそっとつぶやいた。そして、ドアを開け、一歩を踏み出した。
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