列車が東京へと向かう中、車窓の景色は徐々に変化していった。のどかな田園風景が次第に姿を消し、代わりに住宅地や小さな町並みが現れ始める。美咲は、その移り変わりを静かに見つめていた。
車内アナウンスが流れ、次の停車駅を告げる。美咲は手元の時刻表を確認する。しわの寄っていない新しい時刻表の感触が、まだ慣れない。東京まであと3時間。長いようで短い時間だ。
隣の席に座っていた中年のビジネスマンが降りていき、代わりに若い女性が座る。彼女はイヤホンを耳に差し込み、スマートフォンを操作し始めた。美咲は自分のスマートフォンを取り出し、画面を見つめる。新しい職場からのメールが届いていないか確認するが、まだ何もない。
お腹が空いてきたことに気づいた美咲は、用意してきたお弁当を取り出す。蓋を開けると、母の手作りおにぎりの香りが漂う。思わず目頭が熱くなる。慌てて深呼吸をし、感情を抑え込む。
美咲がおにぎりを頬張っていると、車内販売のワゴンがやってきた。ふと、コーヒーが飲みたくなる。温かい紙コップを手に取り、その香りを楽しむ。苦みのある味が、少し緊張した神経を和らげてくれる。
食事を終えた美咲は、バッグから小さなノートを取り出した。これから始まる新生活への抱負や、やりたいことのリストが綴られている。東京で行きたい場所、挑戦したい料理、観たい芝居…。一つ一つ読み返しながら、新たな項目を書き加えていく。
ふと顔を上げると、車窓の外の景色がさらに変わっていることに気づく。建物が増え、道路が複雑に入り組んでいる。東京が近づいてきているのを実感する。
美咲は、seat pocketに置かれた雑誌を手に取る。表紙には、東京の最新スポットが紹介されていた。目を輝かせながらページをめくる美咲。そこには、彼女がこれから体験するであろう都会の喧騒が凝縮されていた。
列車が長いトンネルに入る。一瞬の暗闇の後、再び光が差し込む。その光の中に、遠くに東京タワーの姿が見えた。美咲は思わず息を呑む。
車内アナウンスが再び流れる。「まもなく東京駅に到着いたします」。美咲の心臓が高鳴り始めた。これまで映像でしか見たことのない東京駅。その巨大な駅舎を想像するだけで、胸が躍る。
列車がゆっくりとスピードを落とし始める。美咲は立ち上がり、スーツケースを取り出す準備を始めた。手が少し震えているのに気づく。深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
プラットフォームが見えてきた。人々で溢れかえっている。美咲は、その光景に圧倒されながらも、一歩を踏み出す勇気を奮い立たせる。
列車が完全に停止し、ドアが開く。人々の流れに身を任せ、美咲は新しい世界へと一歩を踏み出した。東京の空気が、彼女の肌を優しく包み込む。
美咲の新しい人生が、今まさに始まろうとしていた。
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